極小辞林 「いっちょん好かん」は「一番嫌いだ」?

 17日付毎日新聞夕刊「人生は夕方から楽しくなる」でブロードキャスターピーター・バラカンさんを取り上げていました。その中で「好きな日本語を尋ねると……」の後に「福岡の友人から教わった方言『いっちょん好かん(一番嫌いだ)』」と出てきます。

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 これ、間違っています。「いっちょん」を「一番」と訳していますが、「いっちょん」は「いっちょも」、つまり「ひとつも」ですね。「ひとつ」を「一丁」とか「一個」とか言いますが、これが「いっちょも」→「いっちょん」と音便化したもので、後には否定の言葉が続きます。

 

 したがって「いっちょん好かん」は「ひとつも(少しも、ちっとも)好きではない」ということになります。「試験、できたや?」「いっちょん分からんやった」といったふうに使います。福岡の友人に教わったということですが、佐賀や長崎、熊本など九州では割と広く使われます。

 

 それにしても、バラカンさんは、「いっちょん」を「一番」だと思って記者に話したのでしょうか? もし、そう話したしても、記者が確かめれば、違うと分かったはず。こうした間違いが紙面に出たのは、結果的に新聞社の責任です。恐らく社内でも「『一番』じゃないんじゃないか?」という話になったのだと思います。別の地域で同じ日に配られた夕刊からは「(一番嫌いだ)」がそっくり削られていましたから。

 

 ついでに副詞としての「一番」は「いっちゃん」と言うことがあります。

 

 余談ながら「ブロードキャスター」という肩書も珍しいですね。